1. 自発性使用の原理(Principles of Spontaneous Use)
米国児童心理学者アーサー・ジャーシルド博士(Dr. Arthur T. Jersild)が提唱した発達原理です。幼児は発達の過程で自発的に成長する力を備えており、「新しく獲得した能力・自分ができるようになったこと」を自ら好んで繰り返し使おうとする強い傾向があります。
ハイハイができるようになった乳児が部屋中を這い回り、言葉を覚えた幼児が一日中楽しそうに話しかけてくるのがその典型です。 子どもが夢中で遊んでいるとき、大人が「もうやめなさい」と安易に中断させるのは発達の芽を摘む行為です。危険を発見した場合は、遊びをやめさせるのではなく「環境から危険を取り除き、子どもが安全に自発的な遊びを続けられるように整えること」が保育者の役割です。
2. 興味の原理(Principles of Interest)
活動の対象や遊びの内容が子どもにとって前向きな魅力(誘因性)を持つとき、子どもは自ら積極的・意欲的に取り組み、驚くほどのスピードで動作を獲得していきます。その内的動機の源泉こそが「興味」です。
保育者が子どもの興味の方向性(動物の真似、乗り物ごっこ、色や音の変化)を的確に捉えて環境を構成することで、子どもの多様な活動と創造的な探究が一気に花開きます。
3. 直接体験の原理(Principles of Experience)
活動の中で自ら問題を解決し、身体で実感して得られた知識を「体験」と呼びます。 幼児は大人のように頭の中だけで抽象的に思考し、結果をシミュレーションして予測することはできません。
子どもは自らの感覚器官(視覚・聴覚・触覚・平衡感覚)と運動器官(手足・体幹)をフル稼働させて直接物に触れ、動くことで初めて真の理解に至ります。 したがって、幼児体育の指導は「口先だけの言葉で教えるのではなく、魅力的な手本を示し、子ども自身が身体全体で体験して納得できる機会をつくること」が不可欠です。
4. 練習の原理(Principles of Exercise)
同じ運動動作を反復して行うことを「練習」と呼びますが、単に機械的に繰り返すだけでは十分な効果は得られません。 心理学者エドワード・ソーンダイク(Edward L. Thorndike)が唱えた「使用の法則(Law of Use)」と「効果の法則(Law of Effect:快感や達成感が伴うと学習が定着する)」の両方を考慮することが極めて重要です。
大脳から末梢神経へのシナプス結合(運動パターンの神経回路)は、一定の方向性を持った適切な反復刺激によって初めて強固に確立されます。 最も大切なのは「強制された退屈な練習を避け、子ども自身が喜びを感じて自発的に繰り返したくなる遊びの工夫」です。
5. 暗示の原理(Principles of Suggestion)
他者から提示された言葉や動作のモデルが刺激となり、感覚・知覚・行動・感情・思考に望ましい影響を与えることを「暗示」と呼びます。 暗示が有効に機能するかどうかは、暗示を与える側(保育者)と受ける側(子ども)の間の信頼関係に深く依存します。子どもが保育者を心から信頼しているとき、暗示の教育的効果は最大化されます。
運動指導において暗示は絶大な力を発揮します。例えばマット前転を教える際、 「おへそを見て、ボールのように丸くなって転がろうね(言葉の暗示)」と伝えたり、保育者がしなやかに丸くなって転がる手本を見せる(動作の暗示)ことで、子どもは動作のイメージを直感的に掴み、驚くほどスムーズに技を体得できます。
幼児の運動指導法に関するQ&A
現場での指導実践や子どもの心理的配慮について解説します。